
「退院したら一番にしたいこと?それはロールケーキを食べること!」と在宅看取り目的で退院した利用者が言いました。
私たちは自宅でお会いしたのですが、その言葉に思わず微笑んでしまいました。
癌の末期でこれ以上の治療出来ない、ならば自宅で過ごしたいと希望して退院してきた利用者がいました。
るい痩は著明で倦怠感も強い状態でしたが、なんとかトイレ歩行はできる程度のADLでした。
ただ医師からの説明ではいつどうなってもおかしくないとのこと。家族も覚悟を決めて、在宅生活がスタートしたのです。
病院では、治療の影響で味覚の変調や嘔吐などがあり、ほとんど何も食べることが出来ませんでした。
しかし、退院してすぐにロールケーキを食べたいといったのです。
家族はすぐに買いに行き、私たちが見守る中利用者は口に入れました。
もちろん食べたのはほんの少し。
でも「あーうまい!」と最高の笑顔を見せてくれました。これが在宅の醍醐味でもありますよね。
病院では、なかなか自分の食べたいものだけを食べることはできません。
しかし、在宅では自分が食べたいものを食べることができるのです。
もちろんそれが一口しか食べられなくても。
主介護者の妻は、入院中いつも辛そうで見ていられなかった。
家に帰ってきても同じ状況なのかなと思って不安に思っていたけれど、退院しこんな笑顔を見ることが出来た。
これで私も頑張れると前を向くことが出来たといいます。
このように、最後まで癌の治療に向き合ってきたけれど、結局治療の限界を迎え、在宅看取りの目的で退院して来る人は少なくありません。
退院してきたけれど、家族、特に主介護者は大きな不安を抱えていることが多いです。
なぜなら、この先には死があるから。わかっているけれど、今後どんな風な最期を迎えるのだろうかと漠然と不安を感じているのです。
この利用者の場合は、それから2週間を自宅で過ごし、安らかに最期を迎えました。
私たちは毎日訪問していましたが、「昨日は〇〇を食べた、次は〇〇を食べたいなあ」など嬉しそうに話してくれました。
「自宅では、食べたいものを食べることが出来る。こんなにうれしいことはない」と、顔をほころばせたことが印象に残っています。
しかし日を追うごとに体は衰弱していきました。
しかし自分の要望を伝えてくれること、そしてわずかでも口から食べることが、利用者にも介護者にも希望を与えました。
余命は宣告されたけれど、食べたいものがまだまだある限り、この人はもっと生きることが出来るのでは?と妻は笑っていたほど。
そんな妻の喜ぶ顔も見たくて、「〇〇が食べたい」とリクエストをして周りの人をポジティブにさせたかったのかなと、振り返ってみると思いますね。
退院後2週間という期間でしたが、私たちはその利用者にかかわることで食べること、そして生きるということについて深く考えさせられました。
結局最後にこの利用者が食べたものは何だったと思います?バームクーヘンです。
しかも一枚一枚薄皮をはがしながら。
「子どもの時、こうやって食べるとすごく怒られた。でも自分の中ではどこまできれいにはがせるのか、実は挑戦していたんだ…」と。
食べるのもはがすのもほんの僅かでしたが、本人は大満足!
人にはそれぞれ、残された在宅生活の過ごし方、最期の旅立ち方があるけれど、こんな最期もいいなと思った事例です。
あなたには最後まで食べたいものはありますか?