
ニュースでも高齢者の虐待が問題になっている昨今、訪問看護でもそういったご家庭があることは例外ではありません。
今回は訪問看護の現場で働く看護師さんに高齢者の虐待・ネグレストの体験を紹介してもらいました。
訪問看護としてできる限界や現場での苦労を感じる事ができる事例です。
気が重くなるかもしれませんが、これも訪問看護の実際の現場の一部です。
訪問看護に興味のある人は読んでみてください。
訪問看護であった高齢者の虐待・ネグレストの事例
高齢者の介護に、とても協力的なご家庭の方はこちらも安心してお任せすることができますが、介護に非協力的なご家庭もあることは否めません。
パートナーが認知症になり、介護する側も高齢者である介護状況が多いです。
認知症になってしまうことで、今までできていたことができなくなったことに対しイライラしてしまうことはあると思います。
私たちは週に1~2回、各1時間ほどの訪問で終わります。仕事としてかかわっているためご家族ほどの負担はありません。
が、ご家族は24時間365日です。
やはり介護へのストレスや負担は大きいと感じます。
食事や排泄、清潔への援助を高齢者が行うことは重労働であり、身体的精神的負担は想像以上になるかと思われます。介護者が疾患を持ちながら介護を行っていることも多いです。
そのため、訪問看護でお手伝いをしますが他人である私たちが行うことには限界があります。
今回の事例は高齢者虐待、ネグレストです。訪問した時に身体の状態の観察を行いますが、顔にあざがあったり、擦過傷があったり明らかに転倒とは異なる傷がある方もいます。
認知症のため殴打されたことなど記憶になく、ご本人の口から伝えてもらえないもどかしさを感じます。
またご家族からも「転んだんだよ」と先手を打たれることや、訪問中常にそばにおり、利用者さんの言動を逐一チェックしているご家族もいらっしゃいます。
事例1:介入しづらい高齢者への無頓着、無関心
あるご家族のお話をいたします。
Aさんは大正生まれのかなりのご高齢の方です。足腰はしっかりされていますが認知機能が低下してきています。
次女様ご家族と同居されていますが、訪問看護との連携を取ることやAさんと関わることは一切されません。
キーパーソンは近くに住む長女様です。お食事も長女様が準備されています。しかし、食事を用意するだけのため食べるか食べないかまでは把握されていません。
訪問はお昼ごろに行っていますが毎回手つかずの朝食が置いてあります。食事を運んでくださるだけでもありがたいとは思いますが、Aさんにとっては食事がないのと同じです。
また同居しているにも関わらず、次女様ご家族はAさんに無関心です。
すでに今年に入り4か月がたちますが一度も会っていないとのことでした。
訪問看護が介入するようになり半年が経過しますが、私たち訪問看護師も次女様ご家族とお会いしたことは一度もありません。
Aさんのご自宅は古く大きな建物なのであちこちに傷みがあります。
ねずみも住み着いているようで、Aさんの寝室にはねずみの糞が大量にありました。寝具の汚染も著明でありますが、交換をお願いしてもなかなか行ってもらうことができません。
常に娘様たちはご自宅にいらっしゃるわけではないため、お話し合いも設けることができません。
訪問看護での対応と限界
しかし不衛生な環境でAさんを生活させていくわけにはいかないため、長女様となんとか連絡を取りました。
そして、ケアマネジャーさんと相談を行った結果、ショートステイに行っていただくよう手配をしました。
その間に室内の清掃などを行っていただくよう長女様にお願いしましたが、清掃は進まないようです。
清掃が終わるまでは帰したくない思いでいる私たち看護師と、ショートステイの利用料を気にされ早く帰宅させたいご家族との間で意見の相違が生じます。
長女様に室内の汚染がひどいことをお伝えしましたが、「そうなんですか、そんなに汚いんですか」と無頓着さが明らかでした。
こちらから不衛生さや環境整備への指導を行ってもなかなか理解しづらい様子が見受けられ、悪意のない無関心ほど介入しづらいことはないなと感じた一つの事例です。
事例2:誰のための看護か?社会的体裁のため高齢者の意向を拒否する家族
またとあるご家庭で介護されているBさんはやはり認知機能が低下しており、会話もままならないときも多々あります。
Bさんは外に出たくてもご家族の拒否が強く外出の機会がありません。
車いす生活なので訪問時にお散歩で外出する機会を設けようと提案をしてみましたが、ご家族は断固として拒否をされました。
理由は「車いす生活になってしまった親を近所の人に見られたくないから」です。
こうした理由から外の空気を吸うことも許されないBさんの余生はとても悲しいものであると感じてしまいました。
訪問看護での対応と限界
なんとか外に連れて行きたいと思う私たちと、断固として外に出したくないご家族。どんなに説得を行っても最終的にはご家族の意思が優先されてしまいます。
そのため、Bさんが少しでも外の気配を感じることができるよう、窓を開けて外の空気を取り入れてあげることしかできません。
誰のための看護であるのか、ご本人の意思が尊重されない医療の在り方に疑問を感じてしまいます。
訪問看護でできる選択肢
ご紹介した2名の方は激動の時代を生きてきた方たちです。今現在の日本の礎を築いてきてくださった方たちが、家族の無関心や体裁を理由に心穏やかに生活することができずにいるのはとても心苦しいことだと感じます。
おかしいな、と感じた際には地域の包括支援センターや介入しているケアマネジャーに報告することとなっていますが、状況が切迫しているような虐待の現場を発見した際にはすぐにでも警察に連絡をするようになっています。
また相談窓口として都道府県に高齢者の虐待相談窓口があるので、そこに相談するのも解決策の一つとなります。
まとめ
無頓着、無関心、社会的体裁を保ちたいという理由でご家族が安心した生活を送れないのは高齢者虐待・ネグレストであると思います。
虐待は暴力だけではないと思うできごとであり、こうした虐待を訪問看護の介入により少しでも早く察知することで安楽に生活していただけるようお手伝いをすることの大切さを感じています。