訪問看護:作業療法士(OT)の仕事

言語発達遅滞と診断された男児に対して、小児の作業療法を実施したエピソードをご紹介します。

事例紹介

3歳0ヵ月の時に言語の遅れ、手先の不器用さが見られたため、小児科を受診したところ、療育園を勧められました。

そちらで言語療法と作業療法を開始しました。

その半年後に病院で検査を受けましたが、原因不明であり、言語発達遅滞との診断を受けました。その際に病院での言語療法も開始となります。
その後手先の不器用さが持続したため、5歳10ヵ月の時に同病院での作業療法が開始となり、私が担当となりました。

事例の心身機能と動作レベル

小児の状態

コミュニケーションは、理解・表出ともに簡単な内容は受け答え可能でした。
一人でごっこ遊び(レンジャーごっこ等)をしていることが多く、他者の働きかけに対して応答性が低い状態でした。

認知機能

認知機能としては、抽象的概念(数や比較の概念)と視知覚能力(色や形の弁別、構成能力)の未発達さが見られました。

運動面

運動面としては全身の筋緊張が低く、座位では机に寄りかかる、立位では止まれずに動き回るなど、抗重力位での姿勢保持が難しい状態でした。

またバランスを崩した時に態勢を変えて倒れないようにする等、バランス反応の低下も見られました。歩くことは可能でしたが、走ると転びやすく、両足飛びや片足立ちができませんでした。

上肢の動きとしては、母指と・示指・中指の3指握りは可能でしたが、指腹つまみと指尖つまみは困難でした。右手を主に使用し、左手を補助的に使うことができず、また手先を見ずに作業することが多く、目と手の協調性も低い状態でした。

感覚面

感覚面では、聴覚が鈍く、人の話に注意を向けることができませんでした。それに対して視覚は過敏傾向であり、色々な物が見えると一つの物事に集中できなくなる傾向もありました。前庭覚・固有覚は鈍麻傾向であり、その結果自身の身体の位置や動きが捉えにくい部分がありました。それに加えて四肢の触覚も鈍麻しており、触った物の感覚の分かりにくさもありました。

生活の中では、食事の際にスプーンなどを使えず手づかみで食べる、着替えの際に身体と衣服の位置関係を捉えられないなど、介助を要しました。また尿便意がなく、トイレのタイミングは両親が時間誘導している状況でした。

両親の希望

ご両親は、身の回りのこと(食事・着替え・トイレ等)が自分でできるようになって欲しいこと、また人の話しかけに対して、注意を切り替えられるようになって欲しいとの訴えがありました。

問題点の焦点化

上記の内容から、触覚・前庭覚・固有覚の感覚調整能力の未発達が根底にあり、その結果として注意の散漫さ、目と手の協調性低下、全身性に低緊張であり姿勢保持困難、バランス能力の低下、ボディイメージの未発達による身体の両側を協調的に動かすことの難しさが生じていると考えました。

作業療法として行ったこと

注意力が低下し、他者への働きかけに対する応答が乏しい点に対して、セラピストとのやり取り遊びを行いました。

セラピストとのやり取り遊び

その内容としては、男児が遊びたいおもちゃの道具をセラピストが持ち、
男児から「ちょうだい。」などの声かけがあって初めて道具を差し出す、
また正しくできた場合には目を合わせて褒めるなどのやり取りとなります。

これにより、男児はおもちゃで一人遊びをするのではなく、

他者の存在を認識し、他者を介して遊ぶことを学びます。

またどうすれば道具を貸してもらえるのかを考えたり、

上手くできた時に褒められることにより更に他者との関わりを持とうとするなどの、

社会性を身に付ける第一歩となります。

目と手の協調性の発達を促す

次に目と手の協調性の発達を促すことを目的に、小さな缶を開けて中のビー玉を取り出し、更におもちゃの木の穴にそれを入れると音を立てて落ちていくおもちゃで遊んだり、絵本様になっている中のページにあるボタンをはめるなどの遊びを行いました。

これにより、目で確認しながら正しく手を動かす動作を身に付けられます。

低緊張の改善、ボディイメージの発達

そして低緊張の改善、ボディイメージの発達を促すことを目的として、
滑り台や円柱マット、はしご、トランポリンなどを使用してアスレチックのような環境を作り、遊びました。

これは自身の姿勢がどの向きに向いているかを捉えたり、体の使い方、力の入れ具合を身に付けられる複合的な遊びとなっています。

こちらの男児はトランポリンが好きであったため、それを最後に持ってくることにより、苦手なはしご登りも意欲的に取り組めるよう設定しました。

また高いところを怖がる場面もあったため、適宜セラピストが介助しながら、徐々に自分でできるように促しました。

また着替えが自分で行えるよう、実際にTシャツを脱ぎ着する練習も行いました。

衣服と身体の位置関係を捉えることが難しかったため、Tシャツと身体の合わさる部分に同じシールを貼り、セラピストとどこを合わせるのか確認しながら行いました。

また袖や頭を通す順番も、徐々に手を出す部分を少なくして自立して行えるようにしました。

その後の変化点

リハビリ場面での一人ごっこ遊びが減り、「セラピストと遊ぶ」という認識ができたため、他者との関わりを自ら持とうとする姿勢が見られるようになりました。

また遊びの中で左手を補助的に使用する場面が増えるとともに、座位や立位の姿勢をしっかりと保つことができるようになりました。

両親からも、他者の話を聞けるようになってきたこと、また転ぶことが少なくなったなどの声が聞かれました。

まとめ

この事例のように、言語発達遅滞と診断された児の中には、運動面でもバランスが悪かったり、手先が不器用であるなどの症状が認められることが多くあります。

その原因の一つとして、体の内部や外から入ってくる多くの刺激を脳で組織化して環境に適応する能力である、感覚統合能力が未発達であることが考えられます。

作業療法ではこの事例のように、多くの刺激を取り入れた遊びを提供し、精神や運動の発達を促していきます。