
訪問看護師は基本的に一人で行動します。
利用者さんから質問されたとき、主治医やケアマネージャーから意見を求められたときなど、誰かに尋ねることもできませんし、毎回「分かりません。」と答えていたのでは信頼を失ってしまう可能性もあります。
今回は、訪問看護師として興味のある人が知っておくべき知識として、
介護保険・医療保険制度について簡単にご紹介したいと思います。
訪問看護師が医療保険や介護保険などの制度を理解しておく必要がある理由とは
私が訪問看護師として働き始めて最初にしたことは、医療保険や介護保険などの制度について勉強することでした。
どこまでの知識を求められるかは訪問看護ステーションの方針にもよると思いますが、
どの利用者さんにどの制度が適用されるのか
週に何回どれくらいの時間訪問できるのか
報酬はいくらか・請求方法はどうするのか
などがすべてこれらの制度で決められているので、まったく知らないというわけにはいきません。
ご家族から質問されたとき、ケアプランを決める担当者会議、主治医との訪問内容を決定する際にも必要になる知識だからです。
では具体的にどのようなことを勉強したのか、
最も基本となる「介護保険での訪問看護」と「医療保険での訪問看護」について少し説明したいと思います。
そもそも訪問看護で提供するサービスとは何があるか
訪問看護には基本的に
「介護保険(介護報酬)での訪問看護」
「医療保険(診療報酬)での訪問看護」
「その他(自費で行う訪問看護など)」
があります。
実際には「介護保険(介護報酬)での訪問看護」と「医療保険(診療報酬)での訪問看護」で訪問看護ステーションの収入の大部分を占めるのが一般的です。
そのため、この2つの制度についての知識を得ておく必要があるのです。
訪問看護師に必要な介護保険の知識とは
利用者さんが要支援または要介護の認定を受けている場合、
基本的には介護保険の制度を使って訪問看護を行うことになります。
要支援・要介護認定を受けている利用者さんには必ず担当のケアマネージャーがいます。
訪問看護師は、ケアマネージャーが作成したケアプラン(利用者さんの介護保険支給限度額の中で、訪問看護や訪問介護・デイサービスなど、どのサービスをどれくらい入れるかという計画書)をもとに訪問を行います。
訪問看護師が介護保険を知っておくべき理由とは
ケアプランが決まると担当者会議といって、すべてのサービスの担当者が集まる会議が開催されます。
ここでは次のようなことについてみんなで意見を交換します。
どの事業所が何の援助を行うか
どうすれば利用者さんが安心安全に生活できるか
その後も利用者さんの健康状態や要介護度が変わった時、新しいサービスを入れる時などは担当者会議で介護の方針について検討し、新しいケアプランが作成されます。
特に知っておくべきことは、介護保険のサービスの中心となるのはケアマネージャーです。
利用者さんの要介護度に応じて、介護点数が決まっています。
ケアマネージャーはその介護点数の中でケアプランを作成していきます。
そのため、訪問看護師はケアマネージャーと上手にコミュニケーションを図り、他職種とのバランスをとる必要があります。
訪問看護師が必要だからと、勝手に訪問看護のサービスを追加で提供してしまうと、
介護点数が足りなくなり、他の介護サービスが受けられなくなります。
そうすると、担当者会議で決めたケアプランは実行できなくなりますし、
他の介護事業者はサービスが提供できなくなるので、収入が得られなくなります。
また、訪問看護師からケアマネージャーにサービス内容の追加や変更について提案することもよくあります。
そのため、訪問看護師も要介護認定や区分変更の仕組み、限度額の意味など最低限のことは理解している必要があります。
介護保険制度の3つポイント
ポイント1:要介護度に応じて、介護点数が決まっている
先ほども記載しましたが、利用者さんの要介護度に応じて、介護点数が決まっています。
ケアプランはこの点数の中で作成されますので、
要介護度で何点あるのか、
どのようなサービスが何点必要なのか
これらについて、大まかに把握しておく必要がおかないと、担当者会議でまともな提案ができなくなり、ケアマネージャーの信頼を得る事が難しくなります。
ポイント2:介護保険での提供する訪問看護サービスはケアプランで決まる
ケアマネージャーが中心となり、すべてのサービスの担当者が集まる担当者会議が開催されます。
そこでケアプランとして、利用者さんに提供するサービスが決まります。
訪問看護もそのケアプランに従って、サービスを提供します。
訪問看護もケアプランの1つであり、また、他の介護サービスも含めて1つのチームだと言う事を忘れないようにしてください。
そのため、勝手にサービスを追加したり停止したりはできません。
ご利用者さん本人やご家族から依頼されても、まずはケアマネージャーに相談が必要です。
ケアプランを超えるサービスを希望された場合は、ケアプランを見なおすか、
自費で行う訪問看護サービスを検討してもらうことになります。
自費でも良いと言われても、どのサービスを自費にするかなどでケアプランの調整が必要になりますので、訪問看護師が勝手に訪問看護を自費にするわけにはいかない事を忘れないでください。
ポイント3:介護保険の料金の負担
介護保険サービスを受けた利用者さんが負担する料金は実際にかかった金額の1割~3割(応所得)で、残りは市町村が負担します。
例えば30分以上60分未満の訪問看護1回の料金はおよそ8000円なので、
1割(約800円)は利用者さんから、9割(約7200円)は市町村からもらうことになります。
この金額は介護保険制度で定められたものなので、どこの訪問看護ステーションでも同じです。
これを介護報酬と言いますが、訪問看護ステーションは毎月すべての利用者さんの分を集計して請求を行わなければなりません。
訪問看護師に必要な医療保険の知識とは
医療保険で訪問看護を行うのは主に、
「利用者さんが若いなどの理由で要支援・要介護認定を受けられない場合」
「厚生労働大臣が定める疾病等(パーキンソン病などの難病や末期がんなど)の利用者さんの場合」
「特別訪問看護指示書が出た場合」
です。
つまり、医療保険での訪問看護は、利用者さんが若くて要介護認定が得られない場合の他、難病やがんのターミナルなど特定の疾患の場合、医師が特別に必要と認めた場合などに行います。
訪問看護師が医療保険を知っておくべき理由とは
介護保険で訪問していた人が医療保険での訪問に変更になることや、その逆もあります。
しかし、医療保険での訪問看護にはケアプランがありません。
私の勤めていた訪問看護ステーションでは、要介護認定のない利用者さんは30代~50代くらいで糖尿病などの生活習慣病を抱える人が多く、訪問目的は体調管理や生活指導、内服管理、インスリン注射などでした。
この場合、利用者さんには担当のケアマネージャーがいないので、訪問の依頼はかかりつけ病院の医師やソーシャルワーカーから受けることになります。利用者さん本人から直接訪問の依頼が来ることも時々ありました。
医療保険での訪問看護にはケアプランがないので、訪問看護師と主治医、利用者さんが相談して、サービスの内容や頻度・時間などを決定します。
しかし、ケアマネージャーは医療保険についてそれほど詳しくない場合があります。
その理由は、資格を取るにあたって必須の知識ではないためです。
もちろん個人的に勉強している人もいます。
医療保険の訪問でもサービス内容を一緒に考えてくれるケアマネージャーもいますが、
「医療保険なら訪問看護ステーションにお任せ」ということもあります。
また、要支援・要介護認定のない利用者さんにはそもそも担当ケアマネージャーがいませんから、頼ることはできません。
こういった場合、訪問看護師は主治医と相談しながら、訪問時間や頻度・サービスの内容を決定する必要があります。
訪問看護を受ける利用者さんの主治医はさまざまです。
地域の中核となる大学病院や総合病院の医師が主治医ということもあれば、近所のクリニックに通っていることもあり、診療科もばらばらです。
在宅医療専門クリニックや、専門でなくとも往診を行っている病院にかかっている利用者さんは全体の3分の1から半分くらいでした。
ですから利用者さんたちの主治医の中には、訪問看護ステーションとの連携に慣れている医師もいれば、関わるのがまったく初めてという医師もいました。
在宅医は常に訪問看護ステーションと連携して仕事をしていますから、訪問看護の仕組みをよく知っていて、何も言わなくても的確に指示を出してくれます。
しかし訪問看護の制度は、医療関係者にもまだよく知られていないのが現状です。
主治医が在宅医療に慣れていないケースの場合、訪問看護師は自らの知識を活かして積極的に提案を行わなければなりません。
例えば皮膚科など、普段めったに訪問看護と関わる機会のない医師が主治医となった場合は、指示書を依頼する際にこちらから訪問看護の概要を説明しなくてはなりません。
訪問看護とは「どれくらい訪問できるものなのか」、「どんなサービスが可能なのか」、「指示はどういう形式で出されるのか」など、主治医に正しく伝える必要があります。
また、在宅専門クリニックには必ず当直や当番の医師がいるのですが、普通のクリニックはそうではありません。
夜間や休日に何かあった場合どうするといった対応も、いざとなってからでは遅いので、あらかじめ相談して確認しておく必要があります。
訪問看護師自らが訪問看護について正しい知識を持ち、医師に対しても積極的に発言できるようにならないと、利用者さんに不利益が生じることになりかねないのです。
医療保険制度の4つポイント
ポイント1:医療保険には基本的に制限がある
医療保険で訪問看護を行う場合は、基本的な利用には制限があります。
それは、利用できる回数・時間が決まっていることです。
医療保険で提供できる訪問看護サービスは、
・週3回まで
・1日1回(30分~90分以内)
・看護士は1人で対応
・使用できる薬剤に制限がある
もちろん、一部の例外はありますが、基本的にはこの制限の中で訪問看護サービスを提供します。
週3回以上の訪問看護が実施できる例外
難病や末期がんの利用者さんの場合、また特別訪問看護指示書が出た場合には週4日以上の訪問も可能になります。
これらの利用者さんは要介護認定を受けていることも多く、その場合は担当のケアマネージャーも交えて相談しながらサービスの内容や訪問時間などを決定します。
特別訪問看護指示書とは、例えば退院直後でフォローが必要な場合や真皮を超える深い褥瘡がある場合など、頻繁な訪問が必要であると主治医が特別に認めた場合に発行される指示書のことです。
難病や末期がん、特別訪問看護指示書などの条件で医療保険の訪問看護を受ける利用者さんは、それだけ重症であり、手厚い看護を必要としていることが多いです。
使用できる薬剤に制限がある
意外と忘れがちですが、訪問看護師が訪問看護の中で利用できる薬剤に制限があるので、注意が必要です。
もちろん、絶対できないわけではありません。訪問看護指示書とは別に書類があればできますので、必要な医師の指示書があるかをきちんと確認してください。
特に点滴・注射を提供する予定が入っている場合には、事前に確認をしてくださいね。
ポイント2:医療保険で訪問看護を利用できる範囲は広い
介護保険では、要介護認定を受けるには年齢などの制限がありますが、医療保険で訪問看護を受ける場合の制限は、介護保険ほど厳しくはありません。
医療保険では、小児から高齢者まで全ての年齢の在宅療養者が訪問看護を受けられる可能性があります。
そのため、本来は医療保険で訪問看護を受けられる人が受けていないこともあります。
例えば、未熟児で出産しNICUに入院していた新生児の場合、医師の訪問看護指示書があれば、退院からすぐに訪問看護サービスを受ける事ができます。
訪問看護の医療保険制度を詳しく理解している医師も多くない現状がありますので、
今後、医療保険での訪問看護が広がっていく可能性があります。
ポイント3:医療保険の料金の負担
医療保険の場合、利用者さんは加入している健康保険の種類によって1割~3割の料金を自己負担し、残りは保険者が支払うことになります(診療報酬)。訪問看護ステーションでは介護報酬とあわせて診療報酬についても毎月計算し、請求を行っています。
ポイント4:医療保険での訪問看護は主体的なコミュニケーションが必要
往診医が入っている場合でも、より頻繁に利用者さんの状態を見ているのは訪問看護師であり、ヘルパーなどの他職種から意見を聞くことが多いのも看護師です。
そのため訪問看護師は主治医と密に連絡を取り、利用者さんの状態を報告して、薬の処方依頼や変更の打診をしたり、必要と判断したら診察をお願いしたりします。
介護保険のようにケアマネージャーが間に入るわけではないので、より主体的にコミュニケーションをとる必要が出てくるのも医療保険での訪問看護の特徴です。
その他(自費で行う訪問看護など)
自費で行う訪問看護の多くは、次のパターンが主な内容です。
・介護保険の点数以上の訪問を希望された場合
・医療保険で週3回以上の訪問を希望する場合
このようにご利用者さんの希望で訪問回数を増やすことは可能ですが、その場合は自費での対応になります。
実は、このこと自体を知らない利用者さんもいるので、ご家族に希望があればと言って、事前に説明することも大切です。
後は、旅行に付き添いをしてほしい等、独自のサービスを希望される場合もあります。
そのような場合は、訪問看護ステーションにて独自の料金設定をしてサービスを提供することになります。
まとめ
訪問看護ステーションの経営は主に、この介護報酬と診療報酬によって成り立っています。
それに加えて、中には全額自費でのサービス(例えば旅行の付き添いなど、医療保険にも介護保険にも当てはまらない、訪問看護ステーションが独自に料金を設定したサービス)を行っているところもあります。
訪問看護師になろうと思ったら、まずは介護保険制度と医療保険制度について勉強するのがいいと思います。
ただ、実際には訪問看護ステーションに入社してから研修などで勉強するので、
ここまでを最低限の知識として認識しておけば大丈夫です。