
医療業界におけるキャリアパスが明確でない理由とは
医療業界におけるキャリアパスは、一般企業とは異なり、あまり明確化されていない印象があります。
それは国家資格である看護師・療法士にとって、「専門的な業務を行うことこそが仕事である。」と言うことが原因の1つではないかと思います。
もちろん管理職は存在しますが、どのような人材で、どのような業績を挙げたら管理職に就けるのか、ということは明確化されていないことが多いです。
国家資格に合格して、看護師の免許を取得した後、大概の方は病院に勤めると思います。
訪問看護は、病院である程度経験を積んだ後に就職することが圧倒的に多く、訪問看護に就職すること自体が看護師のスキルアップの1つとなっています。
ですが、訪問看護には、様々なキャリアパス(キャリアマップ)があります。

今回は、「訪問看護師のキャリアパスの選択肢にどのような道があるのか」に
ついて考えてみたいと思います。
キャリアパスとは
人事労働用語辞典によると、キャリアパスは次のような意味となります。
「ある職種や職務に就任するために必要な一連の業務経験とその順序、配置移動のルート。どんな仕事をどれくらいの期間担当し、どの程度の習熟レベルに達すれば、どういうポストにつけるのか。キャリアアップの道筋や基準・条件を明確化した人材育成制度」
と書かれています。
これは訪問看護ステーションにおいても同様であり、将来どのような職務や立場につくか、そこに到達するためにどのような経験を積み、スキルを身に付けるか、ということになります。
このキャリアパスが整っている程、より自身の方向性が見えやすくなり、モチベーションを上げるポイントとなると言えます。
訪問看護ステーションのキャリア制度の現状
現在、比較的大規模の訪問看護ステーションでは、キャリアパスをしっかりと掲げているところが増えてきています。
その理由としては、離職率の高さが挙げられると思います。
医療業界は国家資格を所持している者が多く、どこでも働くことができるということもあり、他の業界と比較すると離職率が高くなっています。
しかしキャリアパスを設定して将来を見通せるようになることで、「この職場なら長く勤めたい。」と考える方を増やすこともできると考えているのではないでしょうか。
またキャリアパスを明確化することで、
- 訪問看護ステーションでどのような仕事ができるか
- どのようなスキルや資格が身に付くか
- お給料はどれくらいもらえるのか
などが見える化するため、希望者を増やすことにもつながります。
そのため、大手の訪問看護ステーションはキャリアパスを整えようと動いている会社が多いです。
これはキャリアパスが見えにくい病院や施設とは異なる点と言えます。
多くの訪問看護ステーションがキャリア制度を確立できていない
ただし訪問看護はまだまだ発展途上の分野で、このようにしっかりとした教育体制やキャリアパス制度を確立できている訪問看護ステーションは多くない現実があります。
ひとつの事業所のみで経営している小さな会社もたくさんあり、私が働いていた訪問看護ステーションも立ち上がったばかりの小ぢんまりとした会社でした。
このような小規模の訪問看護ステーションでは、まだまだキャリアについて確立されていないのが現実だと思います。
でも、「制度がないから。」と言って、何も考えないわけにはいきません。
制度がなければ、自分で考えて道を切り開くしかありません。
キャリア制度がなければ自らの意思でキャリアを切り開く
自らの意思でキャリアを切り開くと言っても難しいことです。
しかし、逆に言えば、自分次第でどのような道にも進むことができるとも言えます。
具体的にどのようなキャリアアップ(キャリアパス)があるのかご紹介します。
訪問看護師のキャリアアップ・キャリアパス
組織としてのマネジメント層を目指す
訪問看護師として勤務しながら、施設の管理者として働くこともキャリアアップの1つです。
他のスタッフを教育できるレベル(リーダー)を目指す
まずは訪問看護師として他のスタッフを教育できるレベル(リーダー)を目指します。
リーダーになるためには、3年程度の実務経験を積むことが必要です。
十分に実務経験を積むと、まずはマネジメント業務に携わる道が見えてきます。
ステーションの現場で管理者の相談役として、ステーションの管理・運営、業務の整理、利用者様の確保など、あらゆる相談を受けて、共に解決していきます。
その後、訪問看護ステーションの管理者になることも可能となります。
事業所の管理者を目指す
リーダーができるようになったら、次は事業所の管理者です。
事業所内のマネジメントができるレベル(管理者)を目指します。
管理者は、訪問業務だけではなく、地域の関係各所との連絡をしたり調整を図ったり、利用者さんの情報管理、施設で働くスタッフの統率や労務・経理管理など多岐に渡ります。
もちろん訪問看護師としての知識・経験は不可欠となってきますが、先々は自分の訪問看護ステーションを持ちたいと考えている方には、必ず通らなければならないキャリアだと思います。
訪問看護師として経験があるのであれば、管理者候補として募集している企業もあるので、チエックしてみるとよいでしょう。
企業全体の運営に携わる経営幹部を目指す
そのさらに上、ひとつの事業所内での管理業務に留まらず、企業全体の運営に関わるレベル(経営幹部)を目指すこともできます。
管理者の次は、指導する立場であるエリアマネージャーとなることもあります。
これは、本社の方向性を現場スタッフに理解させる役割を担います。
また各訪問看護ステーションから出た意見や現状を本社に報告し、働く環境の改善に努めます。
このようなマネジメントの経験を経て、本社の経営本部に役員として就任することも可能となります。
ステーションの目標を決定し、それを達成するためにどうするかを考えるなど、企画側の仕事をすることもできます。
多くのステーションはマネジメントや教育的指導を担うバイザーなどのキャリアパスを挙げていることが多いですが、稀に新ステーションの立ち上げやマーケティングに携わることができるところもあります。
この経営幹部が組織をマネジメント層では最終の道になります。
経営幹部の他にも、自分の理想とする訪問看護ステーションを開設する起業家への道もあります。
訪問看護師の強みを生かして認定・専門看護師の資格を取得する
訪問看護では、幅広い年齢層、様々な疾患の利用者の方々に対応していかなければなりません。
そこでは、各々病院などで培った専門分野がとても役に立ちます。
その能力を証明してくれるのが、認定看護師制度、専門看護師制度です。
認定看護師には21分野、専門看護師には13分野の特定された看護分野があり、その分野の知識や技術を持っている方が選出されています。
・認定看護師制度(公益社団法人 日本看護協会より)
・専門看護師制度(公益社団法人 日本看護協会より)
訪問看護分野で言えば、認定看護師分野ならば「訪問看護」、専門看護師分野であれば「在宅看護」です。
在宅で療養している方の主体性をサポートするなどの熟練した技術と知識を身につけていると証明される看護師のことです。
取得するのは容易ではありませんが、スキルアップやキャリアアップのチャンスは間違いなく広がるメリットが大きい資格です。
次に訪問看護師が取得を目指す認定・専門資格として最有力なのは、がん看護・緩和ケアに関係する認定看護師、がん専門看護師、そして皮膚・排泄ケア認定看護師です。
訪問看護の利用者様にはがんを抱える方がとても多いです。
手術したばかりの方から外来治療を受けている方、終末期の方まで、それぞれの利用者様を援助するためにはがん看護の知識は必須と言えます。
また褥瘡処置やストマの管理も、訪問看護を依頼される理由としてよくあるものです。
病院ほど物品や医療材料が揃っていない中で適切な処置を行うためには、豊富な知識と臨機応変に対応できる力が求められます。
これらの認定・専門看護師の資格を取得することは自分のキャリアアップにつながるだけでなく、訪問時に診療報酬の加算が付くことがあるので、会社のメリットにもなります。
そのため資格取得のための費用やお休みについては、会社にある程度協力してもらえる可能性があります。
認定看護師資格の今後
認定看護師資格については現在看護協会で見直しが行われており、特定行為研修を組み込んだ新しい制度についても検討されています。
特定行為は常駐医師のいない在宅医療の分野で特に注目されているので、新しい制度の内容によっては、訪問看護師の活躍の場がさらに広がるかもしれません。
一般病棟や介護施設などに復職する
訪問看護師を続けるという道だけでなく、病院や施設に転職するという選択肢もあります。
病院を出て訪問看護の分野に進むことをキャリアダウンだとする意見を時々見かけますが、私はそうは思いません。むしろ病院には訪問看護を経験した看護師が必要だと思います。
特に退院支援に関しては、訪問看護の経験があると格段に視野が広がります。
私は訪問看護師として色々な病院の退院支援部門と関わってきましたが、退院支援における看護師の役割が不明確で、ほとんどソーシャルワーカーさんにお任せという病院もたくさんありました。
入院中から退院後の生活を具体的にイメージしたリハビリや生活指導ができているか、また退院時指導が適切にできているか、そして訪問看護師など地域で働く看護師との連携がきちんと取れるかどうかは、患者さんのその後のQOLを大きく左右します。
これらの視点を持った訪問看護師が病院に戻ることによって、退院支援における看護師の役割を明確にすることができると私は思います。
看護師としての専門職(助産師・保健師・ケアマネージャー等)にすすむ
訪問看護師としてだけでなく、助産師・保健師・ケアマネージャー等の専門職へと進む人もいます。
少子化の時代ですが、助産師は求人も多く看護師のキャリアアップとしては魅力的な1つと言えます。
特に訪問看護の経験を踏まえてケアマネージャーに進むこともイメージができるという看護師さんも多いようです。
その他にも外部研修や学会発表への協力が得られることもあります。
多くの場合それを事業所で発表し、ステーション内で情報を共有したり、知識を増やしていくことで、サービスの質の向上に貢献できます。
その経験を活かして、教育的立場に進む道もあります。
若手の教育体制や、実習生の受け入れ体制を整えることで、社内外での勉強会や講習を通して職員の質の向上に努めることができます。
訪問看護ステーションで起業する
最近では、訪問看護ステーションの管理者を経験したのち、自分で経営者兼管理者として、訪問看護ステーションを立ち上げる看護師も珍しくありません。
これまで出会った訪問看護師の中には、いずれは自分で訪問看護ステーションを起業したいという人も何人かいました。
多様化している訪問看護のサービスの方法を自分の理想に近づけながら仕事することも可能です。
被雇用者として働く看護師が多い中、働いている中で叶えられない看護などもたくさんあると思いますが、起業・独立することでその願いも叶えられるかと思います。
今後、訪問看護の需要が増えていく中で、経営者になる看護師も増加していくのではないかと私は考えています。
起業する方法としては、のれん分けのような形で起業する人もいれば、別の地域でゼロから始める人もいます。
どちらにしても起業は訪問看護師の選択肢としての1つとして挙げられます。
訪問看護師のキャリアパスのまとめ
訪問看護師のキャリアパスとして、大きく5つのコースにまとめられると思います。
1. 組織のマネジメント層(管理者・経営幹部)を目指す
2. 訪問看護師としてのスキルを究める
3. 一般病棟などへ復職する
4. 助産師・保健師・ケアマネージャー等の専門職へキャリアアップを図る
5. 訪問看護ステーションを起業する
キャリアアップ・キャリアパスの仕組みは、大きな組織、又はフランチャイズ展開しているような訪問看護ステーションの方が整備されていると思います。
しかし、管理者や組織の経営幹部を目指すのであれば、小規模の訪問看護ステーションの方が、今後の発展次第で昇進できる可能性が高い場合もあります。
認定看護師や専門看護師でも、事前に面接で支援を約束してくれる事業所もあります。
大切なのは、「自分がどうなりたいか」だと思います。臨床で活躍していきたいのであれば専門・認定看護師の資格を目指すのもいいですし、経営者・マネジメントで活躍したいのであれば、管理者を目指すなど自分の方向性を確かめることが重要です。
ただ訪問看護の経験は、その後どのような道を選んだとしても、看護師としてのキャリアアップに大きく貢献してくれるものだと思います。